胸を開かず、心臓を止めずに、人工弁を心臓に装着する低侵襲な治療法です。
TAVI(タビ)とは、Transcatheter Aortic Valve Implantation の略語で 「経カテーテル的大動脈弁植え込み術」といいます。TAVR(transcatheter aortic valve replacementの略)といわれることもあります。体の一部にカテーテルを挿入し、そのカテーテルを通して人工で作られた弁を心臓まで運び、機能が低下した大動脈弁の内側に人工弁を取り付ける治療です。心臓弁膜症の一つである大動脈弁狭窄症の治療に対して行われ、海外ではすでに2002年から現在までに30万人を超える多くの方に行われています。胸を開かず、心臓を止めずにカテーテルで行う治療のため、患者さんの負担が大幅に軽減します。
心臓は、血液を全身に送るためのポンプの役目を果たしています。心臓内には4つの部屋があり、それぞれの部屋の間に、血液が逆流しないようにするための弁が付いています。心臓弁膜症は、この弁に障害が起きることで、血液の流れが悪くなる疾患です。高齢化に伴い、日本では推定200~300万人の心臓弁膜症の患者さんがいるとされています。
心臓弁膜症には、弁の開きが悪くなり血液の流れが妨げられる「狭窄」と、弁の閉じ方が不完全なために血液が逆流する「閉鎖不全」があります。
<画像提供 エドワーズライフサイエンス社>
大動脈弁狭窄症は心臓弁膜症の一つです。大動脈弁が硬くなって動きが鈍くなり、心臓が収縮する際に弁が大きく開くことができず、心臓から送り出される血液の通路が狭くなってしまう疾患です。
病気が進行すると、全身の臓器に送られる血液が制限されてしまうことにより、心不全、不整脈、失神などの重篤な症状が現れることがあります。
軽度の場合は、薬の投与などによる保存的治療を行いますが、重症の場合は、開胸手術、TAVI(経カテーテル的大動脈弁植え込み術)バルーン大動脈弁形成術を行う必要があります。
<画像提供 エドワーズライフサイエンス社>
当院は2021年2月から、透析患者さんに対するTAVI の治療を開始しました。2021年1月に慢性の透析患者さんに関してTAVIの適応拡大が承認され、2月から全国25の許可施設で治療が行われることになりましたが、当院はその施設の一つです。
大動脈弁狭窄症は加齢とともに発症率が上昇します。また、透析患者さんは動脈硬化を比較的引き起こしやすいこともあり、透析患者さんの中に大動脈弁狭窄症を患う方が一定数おられます。これまでは開胸による大動脈弁置換術しか行われませんでしたが、今回の適応拡大によって、より侵襲性の低いカテーテルによる治療が、透析患者さんの治療の選択肢として加わりました。
地域の透析治療に携わる医療者のみなさまと連携し、透析患者さんに対しても質の高い医療を提供します。
日本で使用できるTAVI弁は現在2種類あり(エドワーズライフサイエンス社と日本メドトロニック社の製品)、いずれも当院でも使用可能です。いずれの弁も金属製のフレームの中に生体弁を取りつけたものです。
当院は循環器の高度専門病院として、TAVI/TAVRはもとより、従来の開胸術も含めて、心臓疾患に関するあらゆる手技に対するエキスパートが揃っており、患者さんにとって、適切な治療を選択する体制が整っています。
治療の方針は、循環器内科医、心臓外科、麻酔科で編成されるハートチームカンファレンスが、患者さんの現状評価と治療適応の綿密な討議を行って決定します。